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シンプルな16bit DAC
2024.08.08

YouTube でも紹介しています。画像をクリックすると再生できます。

以前、Adafruit QT Py ESP32-S2 の内蔵DACを用いて、8ビット・モノラル WAVファイルの再生を行いました。

内蔵DACによるWAV再生

今回は、16bit DAC TM8211 を使って、16ビット・ステレオ WAV音源を鳴らせてみます。

●Features and Specification of TM8211

TM8211はPT8211の後継互換品です。デジタルオーディオ用に設計されたR-2Rラダー抵抗型CMOS16bitD/Aコンバータです。 低THD、両チャンネル位相差0(typ)、またラダーネットワークの採用で高速変換が可能です。
・3-6V Operating voltage, suitable for 3.3V & 5.0V operations.
・This D/A converter uses CMOS Technology
・It supports 3.3 V bus input level
・Low power consumption
・16-bit dynamic range
・Low total harmonic distortion
・In this microcontroller Two audio channel output in the same chip
・No phase shift between both output channel
PT8211 16-Bit DAC

TM8211を使うメリット
・符号付16ビットステレオWAV音源に対応している
・専用ライブラリを必要とせずArduino基本関数のみで構築可能
・WAV音源編集に対して自由度が高い
・周辺の電磁波ノイズの影響を受けにくい

PT8211 Pinout



PT8211 Interfacing_Diagram


データシートの参考回路通りに組んでもよいのですが、直接スピーカー・アンプに繋いで問題ありません。 電源ノイズ対策用のキャパシタも必要ありません。

●LM385N
参考回路通りに組む場合に使える単電源オペアンプです。
バイポーラー/ 回路数:2/ 動作電源電圧min.:3V/ 動作電源電圧max.:32V/ 入力オフセット電圧:2mV/ 入力バイアス電流:20nA/ 入力オフセット電流:2nA/ 消費電流:0.7mA



●Adafruit QT Py ESP32-S2 WiFi Dev Board with STEMMA QT
・ESP32-S2 240MHz
・4 MB Flash & 2 MB PSRAM
・2.4 GHz Wi-Fi (SoC)
・Two I2C ports
・Hardware UART
・Hardware SPI
・Hardware I2S on any pins
・3.3V regulator with 600mA peak output
Ref.Adafruit QT Py ESP32-S2

Qt Py ESP32-S2 Pinout


●配線
 ESP32-S2     TM8211     Speaker Amp. 
A6  -  1:BCK       
A1  -  2:WS       
A2  -  3:DIN       
GND  -  4:GND  -  GND 
3V  -  5:VCC       
    6:LCH  -  LEFT 
    8:RCH  -  RIGHT 
    microSD       
A3  -  CS       
SCK  -  SCK       
MISO  -  MISO       
MOSI  -  MOSI       
3V  -  Vin       
GND  -  GND       


回路を立体的に配置することで、ミニブレッドボード上に纏めています。


左がビルド用のラズベリーパイ、中心上が外部入力端子を持ったMP3ラジオです。

●音源の準備
AudaCityに音源を取り込んで、WAV形式で書き出します。

44.1KHz ステレオWAV音源では、SDカードモジュールからの読み込みに時間が掛かってしまい、演奏が遅延してしまいます。 サンプリング・レートを11025Hzに落として出力します。

●コード解説

掲載用にコードは簡素化しています。
tm8211.ino
#include <SPI.h>
#include <SD.h>
#include <FS.h>

#define SD_CS   A3
#define SDSPEED 40000000

#define PIN_BCK    A6   // 1:BCK
#define PIN_WS     A1   // 2:WS
#define PIN_DIN    A2   // 3:DIN

#define NOP __asm__ __volatile__ ("nop\n\t")

#define BUFFER_SIZE  2048

#define NORMAL      0.65
#define LIGHT_LOLI  0.6
#define HEAVY_LOLI  0.5

#define ETS_DELAY_US_RATE  NORMAL
//#define ETS_DELAY_US_RATE  LIGHT_LOLI
//#define ETS_DELAY_US_RATE  HEAVY_LOLI

// The Canonical WAVE file format
typedef struct {
	uint8_t  ChunkID[4];
	uint32_t ChunkSize;
	uint8_t  Format[4];
	uint8_t  Subchunk1ID[4];
	uint32_t Subchunk1Size;
	uint16_t AudioFormat;
	uint16_t NumChannels;
	uint32_t SampleRate;
	uint32_t ByteRate;
	uint16_t BlockAlign;
	uint16_t BitPerSample;
	uint8_t  Subchunk2ID[4];
	uint32_t Subchunk2Size;
} WAV_FORMAT;


File       file;
WAV_FORMAT pwf;
uint8_t    buf[BUFFER_SIZE];

boolean getWavFormat()
{
	long len;
	short cbsize;

	if (file.read((uint8_t *)&pwf,20) == -1) return false;

	if (memcmp(pwf.Subchunk1ID,"fmt ",4)==0) {
		if((len = file.read((uint8_t *)&pwf+20,24))==-1) return false;
	} else if (memcmp(pwf.Subchunk1ID,"LIST",4)==0) {
		if (file.seek(20+pwf.Subchunk1Size)) {
			if((len = file.read((uint8_t *)&pwf+12,24))==-1) return false;
			if (pwf.Subchunk1Size == 18) {
				// skip cbsize on WAVEFORMATEX
				if((len = file.read((uint8_t *)&cbsize,2))==-1) return false;
			}
			if((len = file.read((uint8_t *)&pwf+36,8))==-1) return false;
		} else {
			return false;
		}
	} else {
		return false;
	}

	if(  memcmp(pwf.ChunkID,     "RIFF", 4)
	   ||memcmp(pwf.Format,      "WAVE", 4)
	   ||memcmp(pwf.Subchunk1ID, "fmt ", 4)
	   ||memcmp(pwf.Subchunk2ID, "data", 4))
	     return false;
	else return true;
}

void writeDACChannel(int16_t mono)
{
	unsigned char pos = 16;

	// Send data into PT8211 in least significant bit justified (LSBJ) format.
	while(pos > 0) {
		pos--;
		digitalWrite(PIN_BCK, LOW);
		digitalWrite(PIN_DIN, (mono & (1 << pos)) ? HIGH: LOW);
		NOP;
		// Toggle BCK.
		digitalWrite(PIN_BCK, HIGH);
		NOP;
	}
}

boolean writeDAC(char *filename)
{
	unsigned short left, right, delayus;
	long block;

	if(!(file = SD.open(filename))) return false;

	getWavFormat();
	delayus = (1000000 / pwf.SampleRate) * ETS_DELAY_US_RATE;
	long len = pwf.Subchunk2Size;

	while(len>0) {
		if (len>BUFFER_SIZE) block = BUFFER_SIZE; else block = len;
		file.readBytes((char*)buf, block);
		for(int pos=0;pos<block;pos+=4)
		{
			left  = buf[pos+1];
			left  = (left<<8) + buf[pos];
			right = buf[pos+3];
			right = (right<<8) + buf[pos+2];

			digitalWrite(PIN_WS,  LOW); // right channel
			writeDACChannel(left);

			digitalWrite(PIN_WS,  HIGH); // left channel
			writeDACChannel(right);

			ets_delay_us(delayus);
		}
		len -= BUFFER_SIZE;
	}
	file.close();

	return true;
}

void setup()
{
	pinMode(PIN_BCK, OUTPUT);
	pinMode(PIN_WS,  OUTPUT);
	pinMode(PIN_DIN, OUTPUT);

	if (SD.begin( SD_CS, SPI, SDSPEED)) {
		writeDAC("/sound/odeon_16bit11KHz.wav");
	}
}

void loop() {}

getWavFormat();
WAVファイルのヘッダー情報を取得しています。

delayus = (1000000 / pwf.SampleRate) * ETS_DELAY_US_RATE;
取得したサンプリング周波数に応じて、TM8211へのデータ送信間隔を算出しています。

while(len>0) {
 if (len>BUFFER_SIZE) block = BUFFER_SIZE; else block = len;
 file.readBytes((char*)buf, block);
ここではある程度纏まった単位でデータを読み込んでいます。 ステレオ16ビットWAV音源では1データの最小単位は左右合わせて4バイトですが、 この単位で頻繁に読み込みを行うと処理への負荷が高まり、音の再生が安定しません。

for(int pos=0;pos<block;pos+=4) {
 left = buf[pos+1];
 left = (left<<8) + buf[pos];
 right = buf[pos+3];
 right = (right<<8) + buf[pos+2];
16ビット・ステレオデータは符号付き2バイト整数値で左→右→左→右のように格納されています。 さらにこの2バイトデータは下位バイト・上位バイトの並びで格納されているので、並び替えて変数に格納します。

digitalWrite(PIN_WS, LOW); // right channel
writeDACChannel(left);

digitalWrite(PIN_WS, HIGH); // left channel
writeDACChannel(right);
ここではTM8211を制御しています。 送信タイミングは下記のようになります。

WSピンをLOWあるいはHIGHにすることで、ステレオ音源の左右データのどちらを送信するかを指定します。
BCKピンをLOWにして、音源データ1ビットを送信後にHIGHに戻し、これを繰り返します。

for (int pos = 15; pos >= 0; pos--) {
 digitalWrite(PIN_BCK, LOW);
 digitalWrite(PIN_DIN, (mono & (1 << pos)) ? HIGH: LOW);
 NOP;
 // Toggle BCK.
 digitalWrite(PIN_BCK, HIGH);
 NOP;
}
音源データを上位ビットから送信しています。 また、送信直後にNOP(No Operation)命令を入れています。

NOP(No OPeration)に関して、インラインアセンブラで定義しています。
#define NOP __asm__ __volatile__ ("nop\n\t")
CPUが特定のデータを読み込んでから、次の処理を開始するためには、少しの間データを保持する必要があります。 その間、NOP命令を実行することで正確な処理が実行されるようになり、CPUの動作が安定します。
ノーオペレーション命令 NOPとは?

ets_delay_us(delayus);
左右1セットのデータを送信したあとで、次のデータ送信間隔を調整することで、周波数を圧縮、伸長することができます。
音声データであれば、データ送信間隔を短くすると高い声になります。

●開発環境
ソースコードのビルドには、PlatformIOを使用しています。
Arduino開発環境構築 PlatformIO

●WAV音源の再生
実際に再生した様子はYouTube動画をみてみてください。
暮れてゆく空は
アーティスト: 遊佐未森
アルバム: ハルモニオデオン
リリース: 1989年


●余談
ソースコードの下記の部分を変更してビルド、再生してみてください。 ちょっとだけ楽しめます。

#define ETS_DELAY_US_RATE  NORMAL
//#define ETS_DELAY_US_RATE  LIGHT_LOLI
//#define ETS_DELAY_US_RATE  HEAVY_LOLI
  ↓
//#define ETS_DELAY_US_RATE  NORMAL
//#define ETS_DELAY_US_RATE  LIGHT_LOLI
#define ETS_DELAY_US_RATE  HEAVY_LOLI

ここでは波形圧縮のみですが、TM8211を使うと独自に波形を作り込んでリアルタイムに再生するということも簡単にできてしまいます。

●参考情報
dilshan/pt8211-dac.ino
 Raspberry Pi(ラズベリー パイ)は、ARMプロセッサを搭載したシングルボードコンピュータ。イギリスのラズベリーパイ財団によって開発されている。
2020.01.05 第1回 abcjs 楽譜作成・演奏スクリプト
2020.01.09 I2S通信によるハイレゾ音源再生
2020.01.18 MIDI再生:FM音源YMF825+Arduino編
2020.01.24 FM音源YMF825+micro:bit編
2020.02.13 Piano Hat & Rosegarden
2020.03.18 テキスト読み上げ gTTS
2020.05.19 テキスト読み上げ AquesTalk pico LSI
2020.06.22 波形処理 第1回 音の波と三角関数
2020.07.22 波形処理 第2回 平均律と純正律
2020.08.26 波形処理 第3回 黒鍵と白鍵
2020.11.21 深層学習 第1回環境整備
2020.12.19 深層学習 第2回マルコフ連鎖・自動歌詞生成
2021.01.02 深層学習 第3回コード進行解析
2021.01.16 波形処理 第4回 コード演奏
2021.08.07 MIDI制御/Adafruit Music Maker
2021.08.23 MIDIフォーマット解析
2021.08.24 オーディオアンプ・スピーカー
2021.10.10 音声ファイルの切貼り
2022.09.16 USB-MIDI
2023.01.16 MAX98537 & PCM5102
2023.03.15 音源サンプリング
2023.06.16 ヤマハ音源IC YMZ294
2024.01.07 内蔵DACによるWAV再生
2024.03.23 Piano Hat for MIDI
2024.08.08 シンプルな16bit DAC
2024.09.09 ESP32-S3 USB MIDI
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2024.11.10 音声変換・参照音声編集


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